蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~

前置きも何も全くない。


いきなりの告白に、拓郎は一瞬、鳩が豆鉄砲をくらったように目を見開いた。


実際、豆鉄砲をくらった気分だったのだ。


「私、あの……」


「え? あ、ああ、ゴメン、それで?」


内心の動揺が覚めやらず、拓郎は、思わず訳の分からない質問を返してしまって、軽い自己嫌悪を覚えた。


いくら何でも、好きだと言われて「それで?」と返すのは芸が無さ過ぎる。


今時、中学生でも、もっと気の利いたことが言える。


もしも美奈が見ていたら、「ちっ!」と盛大な舌打ちが飛んできそうだった。


――もしかして、本当にその辺の影から覗いていやしないだろうな。


拓郎が、少し疑心暗鬼気味にそんな事を考えていたその時、何かを決心したように、藍がゆっくりと口を開いた。


「あの、キスしてもいいですか?」


ええっ!?


思わずたじろぐ拓郎の表情を拒絶と取ったのか、藍の表情がすっと悲しみの色を帯びる。


「あ、違うんだ、そうじゃなくて!」


あまりの自分の不器用さ加減に拓郎は、自分を思いっきり蹴飛ばしてやりたくなった。


そして、込み上げてくる笑いの衝動。


毒気を抜かれてしまった。

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