蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~

今、自分が見ているのは、現実だろうか?


ふと、頭の片隅にそんな考えが浮かんだ。


まるで、この世のものではないような、そんな危うさと儚さ。


次の瞬間消えてしまっても、『ああ、やっぱり』と納得してしまいそうな気がする。


撮りたい――。


撮ってみたい。


それは、カメラマンとしての、押さえがたい欲求だった。


人に、人間という被写体に、こんなに引きつけられるのは、初めてのことだ。


刻一刻と変化する自然の中で、『最高の一瞬』を捉えることが出来た時の、興奮と感動に似ている。


カシャリ。


拓郎は、夢中でシャッターを切った。


カシャカシャカシャ。カシャカシャカシャ――。


静寂を縫うように響くシャッター音。


その音に気付いた少女は、ハッとしたように顔を上げると、音の出所を探すようにおずおずと視線を巡らした。


カメラのファインダー越しの、視線の交錯。


すぐに少女のライト・ブラウンの瞳が、大きく見開かれた。


――ありゃ。驚かせてしまったな。


いきなり知らない人間にカメラを向けられて写真を撮られたら、驚きもする。


一歩間違えば、危ない人だ。


「あっ、すみません! 勝手に撮ってしまって!」


拓郎は、その場でペコリと頭を下げて大声で自分の非礼を詫びた。


そしてそのまま、結構な重さのカメラを抱えて、少女の元に走り寄った。


真っ直ぐな瞳が、頭一つ分高いところにある拓郎の瞳を見上げている。


日本人にしては、かなり色素の薄い明るい茶色の瞳は、朝日を受けて不思議な色合いに輝いていた。


綺麗だな――。


素直にそう思った。

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