蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
さあ、いよいよ、作戦開始。
拓郎は一つ小さく息を吐くと、正面入り口から、吹き抜けになっている玄関ロビーを受付に向かって真っ直ぐ足を進めた。
気付いた受付譲が二人「いらっしゃいませ」と、営業スマイルを向けてくる。
「月刊ビジネスの芝崎と申します。日翔源一郎さんに、取材のアポを取ってあるのですが」
拓郎は、前もって用意してきたセリフを、危なげなく口にした。
「少々、お待ち下さい」
受付嬢の一人がにこやかに応対をして、内線電話に手を伸ばす。
――よし、ここまでは、OK。問題なし。
拓郎は、表情には出さずに、心の中でガッツ・ポーズを取った。
この日翔源一郎へのアポは、藤田編集長の『ツテ』でやっと手に入れた千載一遇のチャンスだった。
藤田が友人の『真面目なビジネス誌』の編集長に掛け合って、と言うより元々耳にしていた企画に無理矢理『日翔』への取材をねじ込んで、その上拓郎を担当記者に推薦――、もといごり押ししてくれたのだ。
これも前回の瀬谷探偵の時と一緒で、藤田は拓郎の目の前でピラミッド化している自分のデスクから携帯電話を発掘して、簡単かつ素晴らしくスピーディーに事を進めてくれたのだ。