蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
もちろん、拓郎は記者の経験など無いので、ノウハウはバッチリ藤田に仕込んでもらった。
要は、質問することを丸暗記しただけなのだが、藤田は『いつもの外面の良さを出せば、問題ないだろう』と、太鼓判を押してくれた。
『外面の良さ』云々は余計だが、行き詰まっていた所だけに正直有り難かった。渡りに船、地獄で閻魔様、困ったときの藤田様様だ。
当分、足を向けて眠れない。
瀬谷恭一の調査データには、藍の現住所も書かれていた。
データを受け取った拓郎はすぐさま、その住所に電話連絡をしてみたのだ。
「あの、藍さんをお願いできますか? 友人の芝崎と申しますが」
「お嬢様は、こちらには住んで居られませんよ?」
拓郎の電話に答えたお手伝いだと言う女性の言葉は、実に素っ気ないものだった。
その声音は、明らかに不審がっている様子だったが、拓郎は何とか藍の居所を聞き出そうと食い下がった。
「共通の友人が事故で入院しまして、至急連絡を取りたいんですが……」
我ながら嘘八百を良く並べるなと、少しうんざりしつつ、拓郎は言葉を続けた。
だが、一度警戒心を抱いてしまったその女性の口は堅く、結局藍の居所は聞き出せなかったのだ。