蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
震える手で封筒を開くと、淡い色彩の向日葵の絵が目に入った。
間違い無い。
これは、藍が置き手紙に使ったのと同じレターセットだ。
昨夜、拓郎が帰ったときは無かった。
貴之が来たときも無かったし、多分朝方家に帰ったのだろう、美奈達が見つけていたなら、拓郎に黙って行くはずがない。
封筒の面には、『芝崎拓郎様へ』
裏面には『藍』と記されているのだから。
「藍!?」
まだ近くに居るかも知れないことに思い当たり、拓郎は慌てて表に飛び出し、アパートの周りに視線を巡らせた。
だが、その目に藍らしき人影は捉えることは出来なかった。
『藍がここに来た』
その事に対する喜び。
そして、何も告げずに再び姿を消した事への憤り――。
己の中に内包する複雑な思いを押さえながら、拓郎は手に残された見覚えのある、向日葵柄の白い便せんに視線を這わせた。
『 I 県 T 市 東台111
日翔生物研究所』
そこには、それだけが記されていた。