蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
実際、少女は病を抱えているのだが、その黒い瞳は、いささかも曇ることなく凛と生気と好奇心に満ちあふれて輝いていた。
「ねえ、柏木(かしわぎ)先生。彼、……芝崎さん、あの手紙を見て、藍を探しにここに来ると思う?」
いつもはハッキリ物を言う少女だが、今日は少し躊躇いがちに、コンピューターを操る白衣の男に質問を投げた。
柏木と呼ばれた白衣の男は、コンピューターを操る手を止めて、ゆっくりと藍の方を見上げる。
「……多分ね。私は、彼は、ここに来ると思っているよ。君だって、そう信じているんだろう?」
そう言って、柏木は、思いの外優しく目で笑う。
それは、決して藍以外には向けられることのない笑みだ。
「珍しく、後悔しているのかい? お姫様」
柏木に、「ん?」とからかうような瞳で顔を覗き込まれた藍は、
「何よ、いじわる!」
と頬をふくらまして、子供の様な仕草でにそっぽを向いた。
『子供扱いしないで!』と言う割に、こういう所はしっかり子供の頃のままで、柏木は思わす苦笑してしまう。
柏木は椅子から立ち上がると、そっぽを向いたままの藍の正面に立った。
少し腰を屈めて、自分の肩ほどしか身長のない藍と目線を合わせる。