蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
「今なら、止められるぞ。今なら、別の選択肢もある……」
柏木の目には、先ほどの柔和さは消えていた。
「……止めないわよ。誰が止めるもんですか」
藍は、真っ直ぐに柏木の瞳を見詰め返すと、まるで自分に言い聞かせるように言葉を紡いだ。
そこに垣間見えるのは、犯しがたく哀しいほどの固い決意。
「……そうか」
生物的に、女は男よりも強く出来ている。
身も心も。
確かに、その通りだな。
なだらかな曲線を描く頬のラインも柔らかいその感触も、半年前と何も変わらないように見えるのに、何かが違う。
少女から、大人の女性へ。
確実に変化している目の前の少女を、柏木は、眩しげに見詰める。
その瞳の奥に宿る熱に気付いて居るのか否か、藍は、「女に二言はないのよ。先生!」と、納得気にウンウン頷いている。
「そうだな。それでこそ、日翔藍だ」
そう言うと柏木は、両手で藍の両頬を、むにゅっと引っ張った。
一瞬の沈黙の後。
「ん、もう! 止めてよね! いつまでも子供じゃないんだから!」
今度は顔を赤くして、プンプン怒った藍は、さっさと部屋を出て行ってしまった。