蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
確かに、以前より体調が悪化している。
それは停滞することはあっても、決して良くなることはないのだ。
病魔は、確実に身を苛み、情け容赦なく終わりへのカウントダウンを刻む。
この、どうしようもない身体のだるさは、自分に残された時間がさほど多くないことを、否が応でも藍に実感させる。
――お祖父様は、私がやろうとしている事を知ったら、怒るのかしら? それとも、悲しむのかしら?
「所長、失礼します」
不意に、備え付けのインターフォンから部下の声が響いて、藍と柏木は同時にドアに視線を向けた。
「どうした?」
ここに居るときは、余程の事がない限り呼び出しをしない事になっている。
我知らず、柏木の声にも緊張が走った。
「それが……。受付に、所長に面会したいと雑誌の取材とかいう男が来ているんですが、何かご予定は入っていますか?」
「雑誌の取材? 私宛にか?」
「はい。『月刊ネイチャー・プラス、芝崎拓郎』と名乗っているんですが……」
その名前を聞いた藍と柏木が、ハッと目配せしあう。
「ああ、予定していたお客様だ。一般来客用の応接室に通しておいてくれ。私もすぐに行く」
答える柏木の声に、笑いの微粒子が含まれる。