蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
「言い訳をするようだが、藍の臓器移植プロジェクトを計画したのは、私ではないよ」
聞こうと思っていた事をさらりと言われてしまい、拓郎は言葉に詰まってしまう。
もし、藍を臓器移植用のクローンとして生み出したのが柏木だとしたら、拓郎は絶対許せないと思ったのだ。
クローン実験がなければ、藍は生まれていないのだろう。
そうだったっら、拓郎は藍とは巡り会えてはいない……。
だが、藍を実験動物として扱った奴らに感謝する気持ちには到底、なれなかった。
まして「臓器移植用のクローン」だ。臓器移植がなされれば、クローンは死ぬのだ。
許せる筈がない――。
「クローン実験をしたのは、私がここに来る前の所長なんだが……すでに亡くなっている」
そう言うと、柏木は、テーブルに入れたコーヒーを置く。
「……そうですか」
拓郎は内心ほっとしていた。
仕事柄色々な人間に会うのだが、柏木は決して嫌いな部類の人間ではなかったのだ。