蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
猥雑に絡み合った木々の中を、小さな懐中電灯の小さな光が忙しなく動き回る。
はあはあと言う、自分の荒い呼吸音だけが耳に響く。
力の入らなくなった藍の足では思うように進めなかった。
拓郎はほとんど、藍を抱えるようにして歩いていた。
幸い、背後から人の迫る気配は感じない。
――最も、忍者のように気配を殺して近付かれたら分かるはずもないが、あの岡崎秘書や普通のガードマンにそんな芸当は出来るとは思えないから、たぶん、自分達が『脇道にそれた』事は気付かれていないはずだ。
半分、祈るような気持ちで拓郎はそう思った。
「もう少しだ、頑張れ」
拓郎の励ましに、息が上がって声を出すことが出来ずに、藍はただコクンと頷き返す。
その時、ポツンと頬に冷たい雫が一つしたたり落ちて、拓郎は反射的に天を振り仰いだ。
視線の先は暗闇で何も見えない。木々も空も渾然一体となって、ただ暗い闇色に融けている。
雨の雫は次第に数を増やして、ぱたぱたと葉を叩く音が賑やかさを増していく。
むせ返るような土の匂いが立ちこめた。