蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~

頭は抜群に良いのに、その処世術の不器用さと言ったら、天然記念物並なのだ。


クールだの、無表情だの、何を考えているのか分からないだの、他の学生や教職員から聞こえて来る彼の評価は、余りかんばしい物ではなかった。


『勉強熱心な、単に不器用な、自分の若い頃によく似た青年』


もし、息子がいれば、こんな感じだろうか?


できれば、こんな事には巻き込みたくはなかった。


これは、もう倫理がどうのと言う問題ではなく、立派な犯罪行為なのだから。


しかし、自分にはもう残された時間がなかった。


それを自覚した時浮かんだのは唯一、柏木浩介のあの生真面目な顔だけだったのである。

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