蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
――こういう時人は酒を欲する物らしい。
『酒を飲みたい』
初めてそう思った。
「一番大きな本棚の右上の棚の奥に、とっておきのお酒があるから、良かったら飲んでね」
いつかの衣笠の言葉を思い出して、そこを探してみると、ウイスキーのボトルが出て来た。
それを手に取ると、指先が何か小さな紙の様な物に触れた。
ボトルの裏側に小さなメモが貼り付けてある。
視線を落とすと、
『柏木君。余り、飲み過ぎないように』
そう書かれてあるのが目に入り、思わず口元が緩んだ。
そしてその言葉の下には、
まるで子供の落書きのような、黒いマジックで描かれた衣笠の似顔絵――。
細長い顔にもじゃもじゃ頭、
そして目尻の人の良さそうな笑いじわ。
それは、学生時代レポートの採点と共に良く描かれていた見覚えのある物だった。