*華月譚*花ノ章 青羽山の青瑞の姫
栗野が日陰のぬかるんだ土に足をとられ、よろめいて速度が落ちたとき、やっと灯が追いついた。





「じっとしてろよ!」





栗野の右側を並走しながら、灯は馬上の汀を睨みつけ、飛び跳ねる手綱を左手でつかんだ。





強く引いたが、興奮状態になった栗野は言うことを聞かない。






ち、と小さく舌打ちをして、灯は手綱を右手に持ち替える。






はっ、と短く息を洩らすと、一瞬深く身を屈め、高く跳び上がった。






気がついたときには、全速力で駆ける栗野の背に跨っていた灯を見て、汀がおおーっと感嘆の声をあげる。





「すごぉーい、蘇芳丸!」





「……………」







汀のすぐ後ろに跨った灯は、眉を顰めたまま答えなかった。





不機嫌そうな空気を隠さずに醸し出しつつ、灯は汀の身体の両側から前へ手を伸ばし、手綱をしっかりと握った。







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