*華月譚*花ノ章 青羽山の青瑞の姫
灯の身体に後ろから包まれるような体勢になり、汀はほっとしたように身を起こした。





栗野の気を鎮めようと考え、灯はしばらく駆けさせることにする。






無言のまま、二人は馬に揺られた。






汀の艶めく黒髪と、灯の真朱(まそお)の長髪が風に舞い踊る。






しばらくすると、汀が灯のほうにゆっくりと倒れこむように身をもたれさせてきた。





そのまま、顔をぱっと上げる。






思わぬ顔の近さに、灯は反射的に顎を引いた。






「……………」





「うふふ」





「…………なんだよ、気味が悪いな」





「ねーぇ、蘇芳丸」





「……………」






「楽しいわねぇ」






「…………俺は楽しくないが」






汀は構わずに灯を見上げたまま、くすくすと笑っている。






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