*華月譚*花ノ章 青羽山の青瑞の姫
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そのころ、灯は。
ひとつ大きなくしゃみをして、鼻を擦りながら群雲の洞窟に入っていくところであった。
「群雲、来たぞ」
「おぅ、灯。わざわざすまんな」
群雲は大らかな笑みで手を挙げた。
慣れた仕草で群雲の前に座る灯に、にこにこと話しかける。
「どうだ、お前のお姫さんーーー汀は」
「…………どうって?」
灯はいつも通りの無表情で答えた。
灯の無愛想には慣れっこの群雲は、気にするふうもなく問いを続ける。
「白縫山に来てしばらく経つが、そろそろ慣れた頃か」
するとぴくりと灯の眉が震えた。
「………あいつには、慣れだのなんだのというのは関係ない。
来たその日から、何十年もここにいる奴のように、好き勝手にやっている」
その不機嫌そうな答え方から、群雲は今までの灯の苦労が手に取るように分かって、笑えてきた。