*華月譚*花ノ章 青羽山の青瑞の姫








「まぁっ、見て見て、露草!」






東の市(ひがしのいち)のど真ん中で、汀は明るい声をあげる。






「この櫛、ツユクサの花の絵が描いてあるわ!


あなたにとっても似合いそうよ!」






汀は楽しそうに笑っているが、露草を始めとして一同、気が気ではない。





なぜかというと。




どうしても人目を引いてしまう汀の華やかな容貌を隠すため、特に瞳の色が目立たないようにと、檀弓が気を使って、頭からすっぽりと衣被(かづき)を被せているのだが。




当の本人がこんなにも大きな声で騒いでしまえば、結局目立ってしまうからだ。






「…………汀。


嬉しいのは分かるけど、ね。


もう少し声の音量を下げられないかしら」






檀弓に声をかけられて、汀ははっとする。






「あっ、そうよね!


ごめんなさい、私ったら………楽しくって、つい」






頭を掻きながら照れ笑いをする汀を、皆が無言で見つめた。







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