*華月譚*花ノ章 青羽山の青瑞の姫
*
「まぁっ、見て見て、露草!」
東の市(ひがしのいち)のど真ん中で、汀は明るい声をあげる。
「この櫛、ツユクサの花の絵が描いてあるわ!
あなたにとっても似合いそうよ!」
汀は楽しそうに笑っているが、露草を始めとして一同、気が気ではない。
なぜかというと。
どうしても人目を引いてしまう汀の華やかな容貌を隠すため、特に瞳の色が目立たないようにと、檀弓が気を使って、頭からすっぽりと衣被(かづき)を被せているのだが。
当の本人がこんなにも大きな声で騒いでしまえば、結局目立ってしまうからだ。
「…………汀。
嬉しいのは分かるけど、ね。
もう少し声の音量を下げられないかしら」
檀弓に声をかけられて、汀ははっとする。
「あっ、そうよね!
ごめんなさい、私ったら………楽しくって、つい」
頭を掻きながら照れ笑いをする汀を、皆が無言で見つめた。