「「言えない」」

出会


震えを抑えきれない私

今にも倒れてしまいそうな彼女

妃吏の顔を心配そうに覗き込む彼



この異様な空気はなんだろう



誰もなにも喋らない



とうとう我慢しきれず話しかけてみた

「あの、妃吏が...
や、この子熱があるみたいなんですけど、
保健室の先生いなくて...
今職員室行こうとしてたんです、けど、」



日本語が上手く話せない



もうこの際伝わればなんでもいいや、

なんて

殆ど投げやりになっていると




「あぁホントだ、熱い。」



見ると妃吏の額に手をあて
首を捻る先生がいた





一言でいうと、恥ずかしい





よくこんなことができるものだ




普通先生は
こんなことしない



本当に先生なのか...?


うーん...でも見た目はスーツだし...


いやでも...どうなんだろう...


考えを巡らすこと数秒、


「ところで君たちは...何年何組かな?」

急な質問



答えなければと顔を上げる




刹那



目の前には先生の顔が



嗚呼
先生、ごめんなさい



突き飛ばす私
突き飛ばされた先生


焦る私
驚く先生



...ま、またやってしまった

しかも眼鏡があんなところまで

ああ、あわわわわわ!


え、えっと、とりあえず謝んないと、
や、先に眼鏡を渡さないと!
落ち着け私、
落ち着け落ち着け落ち着け



「あ、せ、先生!す、すいません
ごめんなさいすいませんすいません!!」


眼鏡を渡し
床に額を合わそうとした私に





「だ、大丈夫だから落ち着いてください。
ね、顔上げて、」



顔を上げなくてもわかるくらい


優しい声がした






「これくらい大丈夫ですよ」




そう言って何もなかったように
笑ってくれる先生









その笑顔が優しくて
眩しくて、








気づけば鼓動も脈拍も
落ち着きを取り戻していた







そうだ私この時から...







「せ、先生!」







「ん?」





「わ、私、クラスはまだわからないけど...
に、2年の、三神遊月!
遊月って言います!え、えっと!
よ、よろしくお願いしますっ!」










先生のこと、
好きだったんだね。











一瞬間が空き


「...ん」



優しく微笑んだ






まだ間に合うかなぁ...先生、






「ん、遊月?それに妃吏...
あれ、確か...僕のクラスですね君たち、」





懐かしいね、先生






「え、ええええええ!?」





あの時確か
廊下で叫びすぎて怒られたよね




「ってことで、遊月さん
これからよろしく」




そう、ここから始まるの





ねぇ先生、
これが私の最初で最後の...






「「ぁ、妃吏のことすっかり忘れてた」」






恋だよね、先生...?








そこには先生に程遠い、
無邪気で屈託のない笑顔があった



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