キスしたくなる唇
「まずい。バレた。千秋さん、走ろう」

「えっ!? ちょ、ちょっと!」

 怜央はフリップを小脇に抱え、わたしの手を取ると走り出した。

 そうなると走るしかなく――




「はぁ……はぁ……っは……、ど、うし……て……」

 全速力で走れたのはジーンズとスニーカーのおかげだけど、運動不足のわたしは全力で息切れ中。

「大丈夫?」

 怜央の息が上がっていないのが憎たらしい。

「どうし……っは……て……わたしまで……逃げなきゃならないのよ」

「あ……成り行きで」

 あっけらかんと笑う怜央。

「腹減ったんだけど、どこか入ろうよ」

 たしかに19時を回っており、わたしのお腹も不満を言いそう。
 
 でも、口から出た言葉は「いやよ」だった。

「千秋さん、時間ないの?」

 ちょっとがっかりした怜央に胸がきゅんと締め付けられる。
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