その指先で、濡れる唇
「ほら、さっさと行きますよ」
「へいへい」
「木村さん」
「うん?」
「私に"弘樹"って呼んで欲しいですか?」
「さあなぁ。なんでもいいよ、俺は」
「えー」
「好きなように呼べばいいじゃん」
「なんかつまんない」
「"真琴"の――」
「えっ」
「真琴の好きにすればいい」
彼の唇から紡がれた私の名前。
心躍る嬉しさに、思わず彼に抱きついてキスの雨をふらせたかった。
でも――。
「じゃあお言葉に甘えて。急ぎますよ、"木村さん"」
「そうくるかよ……」
とりあえず今は皆が待ってる場所へ急がなきゃ。
だから、続きはまた今度。
こんなところじゃなくて、もっと……別の場所で。
呼ばせて欲しい、聞いて欲しい。
お気に入りのリップグロスをつけた私の唇が紡ぎ出す、大好きなあたなの名前を。
【Fin】


