闇に響く籠の歌
ここの経営者は水瀬ではなく柏木のはず。それなのに、水瀬は当然のような顔をして圭介たちを案内する。そんな彼の態度に、どこか胡散臭さを感じている圭介。しかし、柏木は最初に出会った時の印象そのままの人あたりのよさで彼らを店に招き入れていた。


「柏木さんでしたっけ。いいんですか?」


絶対にこの人は人がいい。ついでに、それで損をしている。そんな思いがあふれてきた圭介はそう問いかけることしかできない。そんな彼に柏木はニッコリと笑いながら返事をする。


「いいんだよ。どうせ、僕の店って閑古鳥が鳴いているような店だからさ。どういう理由であれ、お客があるのは大歓迎だよ」


そう言いながら柏木はカウンターの中に入り、圭介たちには適当に座るようにと手をヒラヒラさせている。それに従うように彼らはカウンターのスツールに腰をかけていた。

こじんまりとした店だが、全体的な雰囲気はいい。そんなことを圭介が思っている時、コーヒーのいい香りが店内にたちこめていた。


「川本さんと水瀬さんは仕事中だし、コーヒーですよね。そこの高校生二人もそれでいい?」

「あ、私、できればカフェオレで」

「おい、遥。わがまま言うんじゃないって」

「いいよ。女の子なんだし、カフェオレの方がいいよね。そうだ。ケーキもつけてあげるよ」


柏木のそんな声に遥は喜んで手を叩いている。その彼女に圭介は「わがまま」とポツリと呟くと、水瀬たちの方に顔を向けていた。


「一つ、質問いいですか?」

「なんだろう? 僕たちで答えられることならいいんだけど」


不機嫌そうな川本とは違い、水瀬は気さくな調子で返事をする。その姿に安心したのだろう。圭介は思い切って口を開いていた。


「さっきの雑居ビルの入り口で人が死んでたってきいたんですけど、本当ですか?」


圭介の問いかけに水瀬は返事をしようとはせず、目の前にあるコーヒーに手をつけている。その姿に柏木が呆れたような調子で声をかけていた。


「水瀬さん、それって思いっきり肯定しているんじゃないですか?」

「柏木さん、余計なこと言わない方がいいですよ。それにあなたは遥ちゃんの相手をしてたんじゃないんですか?」

「そうかもしれませんけどね。でも、いたいけな高校生が真剣な目をして訊ねてるのに、答えないっていうのは横暴じゃないかと思いまして」

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