闇に響く籠の歌
「好きに言ってろ。で、奥寺。さっきの話、もっと詳しく聞かせろ」
こうなったら、もう逃げることはできない。そう思った圭介は諦めを含んだ声をあげている。その声に、話を振られた方はどこか楽しそうな調子で応えていた。
「さっきの話? なんだろう」
「おい、分かってるはずだぞ。お前の姉ちゃんの同僚の話だって。ここまで言って逃げるなんてこと、しないよな?」
訊きたいことを知っているはずなのに、あえて問いかけてくる奥寺。それに苛立ちを覚えた圭介の声が不機嫌になっていく。その姿に、奥寺が慌てたように返事をする。
「篠塚、怒るなよ。ちょっと、冗談いっただけじゃないか」
「冗談には聞こえなかったぞ? で、教えてくれるのか? くれないのか?」
「お、教えるって。でも、そんなに詳しくは聞いてないんだぞ」
「かまわない。さっきみたいに思わせぶりに言われる方がよっぽど腹が立つ」
この声には逆らってはいけない。もし、そんなことをすれば大変なことが待ち構えている。そう感じた奥寺は、焦ったように唇を舐めながら言葉を探していく。
「さっきも言ったけどさ。俺には派遣やってる姉ちゃんがいるわけ」
「それは知ってる。で、それがどうしたって?」
「篠塚、目が怖い。そんなに凄むなって。と、とにかく、姉ちゃんのお仲間でこの頃、様子がおかしい人がいるって話になったんだよ」
「お前の家族構成、今さら知る必要ないけどね。でも、どうしてそんな話になったんだ?」
「ま、世間話の流れからって感じ?」
あっけらかんとした調子で話す言葉に、聞いていた圭介たちは思わずガクンとなっている。それでも、このままでは話が進まない。そのことも分かっているのだろう。代表とばかりに圭介が突っ込みを入れてくる。
「どうして、世間話の流れからそういう話になるのかわからんが、その人ってどんな人?」
圭介の問いかけに、奥寺は頭をガシガシとかきながら言葉を探している。そうしているうちに話すことがまとまったのだろう。彼の口調はそれまでと違って、はっきりしたものになっていた。
「その人、姉ちゃんと同い年のフリーターなんだよね。半年ほど前から姉ちゃんの同僚。えっと、名前は斎藤 綾乃(サイトウアヤノ)。小柄でくりっとした目をしたそれなりの見た目の人」
こうなったら、もう逃げることはできない。そう思った圭介は諦めを含んだ声をあげている。その声に、話を振られた方はどこか楽しそうな調子で応えていた。
「さっきの話? なんだろう」
「おい、分かってるはずだぞ。お前の姉ちゃんの同僚の話だって。ここまで言って逃げるなんてこと、しないよな?」
訊きたいことを知っているはずなのに、あえて問いかけてくる奥寺。それに苛立ちを覚えた圭介の声が不機嫌になっていく。その姿に、奥寺が慌てたように返事をする。
「篠塚、怒るなよ。ちょっと、冗談いっただけじゃないか」
「冗談には聞こえなかったぞ? で、教えてくれるのか? くれないのか?」
「お、教えるって。でも、そんなに詳しくは聞いてないんだぞ」
「かまわない。さっきみたいに思わせぶりに言われる方がよっぽど腹が立つ」
この声には逆らってはいけない。もし、そんなことをすれば大変なことが待ち構えている。そう感じた奥寺は、焦ったように唇を舐めながら言葉を探していく。
「さっきも言ったけどさ。俺には派遣やってる姉ちゃんがいるわけ」
「それは知ってる。で、それがどうしたって?」
「篠塚、目が怖い。そんなに凄むなって。と、とにかく、姉ちゃんのお仲間でこの頃、様子がおかしい人がいるって話になったんだよ」
「お前の家族構成、今さら知る必要ないけどね。でも、どうしてそんな話になったんだ?」
「ま、世間話の流れからって感じ?」
あっけらかんとした調子で話す言葉に、聞いていた圭介たちは思わずガクンとなっている。それでも、このままでは話が進まない。そのことも分かっているのだろう。代表とばかりに圭介が突っ込みを入れてくる。
「どうして、世間話の流れからそういう話になるのかわからんが、その人ってどんな人?」
圭介の問いかけに、奥寺は頭をガシガシとかきながら言葉を探している。そうしているうちに話すことがまとまったのだろう。彼の口調はそれまでと違って、はっきりしたものになっていた。
「その人、姉ちゃんと同い年のフリーターなんだよね。半年ほど前から姉ちゃんの同僚。えっと、名前は斎藤 綾乃(サイトウアヤノ)。小柄でくりっとした目をしたそれなりの見た目の人」