闇に響く籠の歌
「ということは、お前、その斎藤さんって人、狙ってたわけ?」


どこか冷めた声で問いかける圭介に、奥寺は焦ったように手をブンブンと振っていた


「そんなことないって。綺麗なお姉さんって感じで見てただけだからさ」

「本当かな〜」

「本当だ! 信じろって! あ、話が横にずれた。で、その斎藤さん、よく飲みに行ってたらしいんだ。それなのに、この2か月ほど休みでもずっと部屋に閉じこもってるっていう話なんだよ」

「気にすることないんじゃない? それって、心境の変化っていうヤツじゃないのか?」


奥寺の話に興味はある。だが、それを感じさせないようにそっけない調子で圭介が言葉を返す。そんな彼の態度に遥が気色ばんで噛みついていた。


「圭介ってどうしてそう冷めてるのよ。でも、絶対に興味はあるのよね。だから、隠さずに白状しなさいって」

「どうして、そんなこと言うんだ。まったく、遥の思い込みには付き合いきれないって」

「そんなこと言うんだ〜。でも、私の目は誤魔化せないわよ。だって、圭介って気になることがある時ってペンで机をトントン叩くじゃない。ほら、今だってそうしてる」


遥のその声には勝ち誇ったような響きしか含まれていない。そのことに気がついた圭介は思わず嫌そうな表情になるが、ここで反論しても負けになるということは分かっているのだろう。すっかり機嫌を悪くしたような声で叫んでいる。


「分かったよ。まったく、遥には負ける」

「当り前じゃない。何年、幼なじみやってると思ってるの? それはそうと、この話に興味あるってこと認める?」

「どうして、ここでそう言う? この件には興味ないし、首を突っ込みたくないって前から言ってるだろうが」


奥寺の話に興味があるということを遥には見破られた。だが、これ以上の譲歩はしたくない。そう思っている圭介は必死になって否定の言葉だけを繰り返す。

そんな彼の様子にニンマリとした表情を浮かべる遥。そして、そんな彼女の様子に気がついたのだろう。茜がのんびりとした調子で圭介に声をかけていた。


「篠塚君、ここはちゃんと認めないといけないと思うわよ。遥とのやり取りの様子じゃ、絶対に興味があるんじゃない。それなのに否定するなんて男らしくないわ」


茜のその言葉を最高の援護射撃だと思ったのだろう。遥がここぞとばかりに声を上げる。

< 40 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop