闇に響く籠の歌
第5章
その日の放課後、圭介は憮然とした表情を崩すことができないようだった。もっとも、そんな彼の様子を遥が気にしているはずもない。彼女は朝、奥寺から教えられた住所に向かうのだとウキウキしているようだった。


「おい、遥。そんなに浮かれるんじゃないぞ」

「どうしてよ。私のどこが浮かれてるっていうのよ」


思いっきり反論の言葉を口にしているが、その態度がいかにも楽しげ。それを見た圭介は頭を抱えることしかできない。

おまけに今日はどういうわけか彼女以外にもくっついてきている相手がいる。どう考えてもお邪魔虫とかいいようのない相手に、彼は嫌そうな顔を向けることしかできなかった。


「なあ、篠塚。どうして、そんな顔するのかな?」

「教えないと分からない? お前が残念なヤツだってことは知ってたけど、思ってた以上なんだ」

「篠塚君、それって言いすぎじゃないの? 奥寺君は情報を提供してくれたの。当然、一緒に来る権利はあるじゃない」


真っ直ぐな黒髪をかきあげながら、茜はそう言っている。その彼女の姿にも圭介はため息をつくことしかできないのだ。

どうして、こんなことになってしまったのだろう。遥だけでも厄介だというのに、それと同等の曲者がくっついてきている。

このまま何事もなく終わるはずがない。今の圭介の思いはまさしくそれだっただろう。もっとも、そんな彼の思いにも気がつかないように、遥は圭介の腕に絡みついてくる。


「圭介、そんな顔しないでよ。今日、斎藤さんに会えれば、何かが分かるような気がするのよね」

「それって、お前の妄想だろう? まず、奥寺の姉ちゃんの同僚がお前の気にしている事件に関わっているはずないだろう」


取りつく島もないというような顔でそう言い切る圭介。だが、そんな彼の目の前で指をチッチと振った遥は頬を膨らませると不満気な声を上げている。


「そんなことないって! 絶対に関係あるわよ!」


その姿はムキになっているという表現がぴったりだろう。この調子では今日も彼女に振り回される。そんなことを思う圭介は、ため息をつくことしかできない。

もっとも、遥にすればそんな彼の反応が不満でしかない。だからこそ、その腹いせと言わんばかりに思いっきり彼の足を踏んづける。
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