闇に響く籠の歌
そんな彼女の思いもよらぬ攻撃に、涙目になっているた圭介。その彼の耳に、どこかで聞いたことのある声が飛び込んできていた。


「そこにいるの、圭介君と遥ちゃんじゃない? 本当に君たちって仲がいいんだね」

「柏木さん、そんなことないですよ。圭介があんまり頑固だから腹立ててるだけなんです」

「そうなの? でも、遥ちゃんがそう言うなら、そういうことにしておこうか」


聞こえてくる声はどちらかというと穏やかで耳には心地いい。だが、それに安心してはいけない。下手をすると、遥の妄想と暴走に火がつく。そんなことを思っている圭介は、声をかけてきた相手に思わずキツイ声で返すことしかできなかった。


「こんにちは、柏木さん。今日はお店は休みなんですか?」

「うん、そうなんだよ。だから、今日はちょっと気分転換に散歩。そしたら、君たちに会ったんだよ。そうだ、よかったらまた店に来る? 休みだけど、コーヒーくらいなら出してあげるよ」


ニコニコと笑顔を振りまきながら告げる柏木の姿。その提案があまりにも魅力的だったのだろう。遥はちょっと考えるような表情になっている。だが、今の一番の目的を思い出したのだろう。彼女は残念そうな響きを含めて、彼に応えていた。


「折角のお誘いなんですけど……今日はちょっと用事があるんです。だから、また今度お邪魔させてもらいますね」

「そうなんだ。残念だけど、仕方がないよね。それはそうと用事? よかったら訊いてもいい?」


柏木の言葉があまりにも自然なものだったからだろう。遥はフッと目的を告げそうになっている。そんな彼女の腕をグイッと引っ張っている茜。彼女は急にその場に現れた柏木に不審感丸出しといった目を向けている。


「ねえ、遥。あの人、誰なの?」


茜のその声が変に冷たい。そう感じた遥は「茜ちゃん怖い」と呟くことしかできない。そんな彼女を横目で見た茜は、改めて柏木に声をかけていた。


「どなたか知りませんけど、新手のナンパですか? だったら、お呼びじゃないんですけど」

「手厳しいね。あ、でもたしかにナンパに見えた?」

「ええ、思いっきりそう見えました。で、私たちほんとに用事があるんです。だから、ここで失礼します。篠塚君、遥を逃がしちゃダメよ。奥寺君、あなたは余計なこと言わないこと」

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