闇に響く籠の歌
「あれは教師によるイジメだよな。今まで何人が遅刻扱いされた?」

「クラスのほとんどだよ。ま、篠塚みたいに要領のいいヤツはそんな目にあってないけどさ」


そう言いながら、奥寺はカラカラと笑っている。生徒にすれば教師の来ない今は最高の時。そんな時が延々と刻まれる中、勢いよく廊下を走る足音が響いていた。


「おい、賭けないか? 俺は伊藤だと思うんだけどな」

「奥寺、割の合わない賭けは止めろって。あの先生が走ってるとこ、見たことないぞ」


廊下に響く音に耳を傾けながら、圭介は教師を貶す言葉を平気で口にする。その時、扉が開いたかと思うと、一人の人物が姿をみせていた。だが、それは教科担当の伊藤ではなく、どこか顔色を悪くしている担任の森田。


「今日の日本史は自習。今からプリントを配るから、それを提出すること」


そう言いながら、森田はプリントを配り始める。その姿に何かを感じたのだろう。おずおずと遥が手を挙げていた。


「先生、どうして急に自習になったんですか?」

「そんなこと、気にしなくてもいい。とにかく、大人しく教室にいるように。わかったな」


それだけ告げると、森田はまたあわただしく教室を出て行っている。その姿を圭介たちはポカンと見送ることしかできない。

それでも、今の状況というものがゆっくりではあるがインプットされたのだろう。この事態を理解した瞬間、教室の中ではちょっとした歓声が上がっていた。


「ラッキー! 今日は伊藤のウザい授業うけなくて済むんだ」

「だよな。朝一であいつの授業って考えただけで鬱陶しいもんな」

「うんうん。な、今から何する?」

「何してもいいけど、騒ぐんじゃないぞ。後で睨まれるの、俺なんだから」

「委員長、分かってるって。大丈夫、大丈夫」

「ホントか?」

「ほんと、ほんと。誰だって、簡単なプリント提出するだけでOKなんて状況、ふいにしたくないだろうしさ」


森田が配ったプリントに目をやった奥寺がふざけた調子でそう言っている。その声に釣られたように圭介もプリントに目を落としていた。


「あ、たしかに……これなら、教科書みればすぐにできるよな」

「だろ? 伊藤にしちゃ楽勝のプリントだよな。というわけで、今からフリータイム!」

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