闇に響く籠の歌
奥寺が呼ぶ声は気がつけば騒音レベルにまで達していたのだろう。同じアパートの隣近所の人々が顔を出してくる。そこに浮かんでいる表情が一様に『五月蠅い』と叫びだしそうなもの。そのことに気がついた水瀬は、奥寺を制止するように彼の肩を叩いていた。


「お、奥寺君っていったよね。やっぱり、留守なんじゃないかな? ね、これだけ呼んでも出てこないんだし……君も分かってくれたと思うよ。柏木さんも居留守だなんて変なこといって、高校生を煽らないでください。それでなくても、親父さんが変に暴走しちゃうっていうのに……」


奥寺を諌めているのか、柏木に対してぼやいているのか分からない水瀬の声。それは、それだけ彼が色々なことで苦労しているからだろう。そう思った圭介は、思わず自分と彼を重ねてしまったのだろう。まだ激しく扉を叩いている奥寺の首根っこをむんずと掴んでいる。


「篠塚、何をするんだ! 苦しいって!」

「いや、お前の声って絶対に傍迷惑。近所の人の目を考えろって」

「でもさ。姉ちゃんはいるはずだって言ってるんだぞ。ここは諦めずにチャレンジするべきだろうが」


圭介の指摘に奥寺は涙目になりながらも抗議する。その姿に思わず脱力感を覚える圭介だが、ここでくじけてはいけない。そう思ったのだろう。ため息をつきながらも奥寺の相手をしている。


「お前の姉さんはそう言ったかもしれない。でも、だからっているはずだっていう風に考えるのがおかしいだろう。それに本当にいるんなら、これだけ騒いでるんだ。絶対に何かの反応あるんじゃないのか?」

「それはそうかもだけど……」


圭介の言葉に奥寺はうなだれながら頷いている。それでも、諦めきれないとばかりに、またチャイムに手を伸ばす。


「おい、人の話きいてたのか? この状況でまだやろうとするなんて、お前ってホントにバカだったんだな」

「篠塚はそう言うけど、もう一回だけ。これでダメなら、俺も諦めるからさ」


そう告げる奥寺の勢いを圭介は止めることができない。もう、どうなっても知らないぞ、というような顔をする彼を横目でみた奥寺はまたチャイムを何度も鳴らしている。それでも、部屋の中からは何の反応も返ってこない。この事態に、さしもの彼も顔色を悪くすることしかできないようだった。


「や、やっぱり、留守なのかな? だとしたら、やりすぎた?」
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