闇に響く籠の歌
圭介がどこか震える声でそう訊ねている。もっとも、問いかけている圭介も柏木がもっているのが鋭利なナイフだということには気がついている。そして、それの切っ先からポタポタと落ちる赤い色。それが何だということは教えられずとも分かるともいえる。なにしろ、柏木の足元には綾乃が苦悶の色を浮かべて倒れているからだ。


「柏木さん! 何をしたんですか!」


圭介の悲鳴のような声が上がる。だが、それをぶつけられた柏木は平然とした顔で応えてくる。


「見て分からない? 僕は深雪さんの復讐をしただけ」


あっけらかんとしたその声に誰も声を出すことができない。そんな中、淡々とした調子で柏木は言葉を紡いでいた。


「深雪さんとは昔からの知り合いだったんです。綺麗な人で憧れのお姉さんだった。彼女は優しい人で、ニュースで言われたように夜遊びをするような人じゃなかったんだ」


そう言った彼の表情はどこか悔しそうなものになっている。そのままの顔で彼は話し続けていた。


「だから、僕は真相を調べ始めた。ありがたいことに、僕の仕事場は噂話が集まりやすい。その中、怪しいっていわれている人たちをみつけたんだ。でも、なかなか本当のことを言わない。ようやく、この前の先生がある程度のことを話してくれたよ。あとは、この女を追い詰めるだけだった」

「だからって、殺すことないんじゃないですか」


圭介のその声に柏木は口角を上げるだけ。そんな彼に驚いたような調子で水瀬が声をかけていた。


「柏木さん……じゃあ、あなたって深雪が弟のように可愛がっていた亮太君? でも、だったらどうしてこんな無茶を……こういうことって僕たち警察に任せてくれればいいじゃないか」

「水瀬さんはそう言いますけどね。でも、僕にすれば、僕の手で仇を討ちたかった。そうすることで深雪さんも浮かばれると思ったんですよね」

「おい、柏木。つまり、お前が俺たちの前をチョロチョロしていたのは、素人探偵気どりだったってわけか? で、最後の最期に犯人を勝手に殺した。そう思って、間違いないんだな?」

「川本さん、それは言いすぎじゃないですか? 僕は警察ができないことをやったんです。そして、このままで済むはずがないのも分かっている。だから……」

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