ビターエッセンス
ちぃさん曰く美容院での一幕らしい。
懇意にしている美容師さんが独立して青山に店舗を構えたので、激励がてらお客として行った日。
お花を貰ったお礼にとオーナー自ら、ヘッドスパのフルコースを施してくれたとか。
「忙しかったからか香水を変えたのか知らないけどさぁ良い匂いがしてくるわ、その上あの指ったら。あんまり気持ち良くてさぁ悶絶モノよ?今まで、エッチ対象に見たことなかったのに、もう少しで『私を抱いて!!』って絶叫しそうになったわ。」
普段は決して吸わない煙草の煙を吐きながらちぃさんは、あれがフェロモンて奴よねと笑う。
「……絶叫しなくて良かったよ、ちぃさん」
今をときめくモデル事務所の社長さんが、美容院でハレンチ発言なんて頂けない。
「欲求不満じゃないです?それか過度のストレスか」
私は何だか気恥ずかしくなって適当な相槌を打った。
いくつになってもこういう話は恥ずかしい。
「相手には困っていないのよ」と断言しつつ、ちぃさんは持っていた江戸切子のお猪口を口運び、またもやいやらしい笑みを浮かべた。
「まぁ、ミッチ―には負けるけど~」
私は小さく溜息を付く。
また、そこに戻るわけですか。
今日はやたらと、彼女の事務所に所属している陽希(はるき)ネタでいじリ倒されているのだ。
彼と付き合い始めてからこの半年、ずっと黙認してきたちぃさんなのに。