ビターエッセンス
「ミッチーは仕事が忙しいって言ってる割に、陽希に愛されてから、お肌ツルツルよねぇ」
「一応メンテナンス位はしてるんで」
好きな人が居たら、綺麗って思われたいのが女心ってものでしょ。
「大学入って来た頃なんて、色気もクソも無かったのに、変われば変わるもんだわ。」
「……今でも覚えてますよ。ちぃさんに、『ただでさえ大きくて目立つんだから、美しく魅せる努力をしなさい』って、新歓コンパで説教されたこと」
「あはははっ、言った言った~。だってあの頃のミッチー、美少年みたいだったからさぁ」
大した化粧っ気もなく、GパンとTシャツだった十代の頃。
唯一女に見えたのは、運動系の部活を辞めた後に伸ばした髪位。
その髪すら無造作に束ねる程度だったから、ちぃさんの美意識の逆鱗に触れたようで。
私はそんなちぃさんを師匠と仰ぎ、メイクやファッションについて教えを乞うた。
そして、その奥深さにすっかり魅了された私は、綺麗になりたい女性を応援しようと意気込み、ファッション系雑誌がメインの出版社を就職先に選んだのだった。
この人はいわば、私の羅針盤のようなもの。
……お酒入ると壊れ気味でも。
「で、今は?あの年下のテクニシャンに落とされてどんなよぉ」
「そんなのよく分んないですって。ちぃさんみたいに比べるほど経験多く無いんで」
「まぁた、30過ぎてもカマトト振るんだからミッチーはぁ。良いなら良いって言いなさいよ」