今日は、その白い背中に爪をたてる
戸川ハルトが芸能人のくせに自分を見るのをひどく嫌うのは、その世界では周知の事実である。


なのに、これだけは見れるってどういうことなの。


私は震えそうになる声を必死に抑えて口を開く。



「自分が写ってるものは見たくないんじゃなかったの……?」



するとヤツは意味深に微笑んで、



「これは俺の原点。
本当に表現したい自分が明確に表れてるのはこれくらいなんだよ、俺自身の宣伝写真だから。
他の仕事はみんなコンセプトが決まってるから自分を出せない、演じるのが俺の仕事でもあるし。」



そして最後にだから好きなんだ、と付け足すから視界が揺れて目眩がした。


自分のことを好きだと言われたような錯覚を起こしてしまった。



「……ふうん。」



悟られまいとポーカーフェイスを継続する私は可愛げのない女だろうか。


いや、可愛げのない女でもいい。


この気持ちは知られてはいけない、怪しまれてはいけない。


傷つくことに恐れをなさない私にだって、傷つきたくないたった一人の相手がいるんだ。



「えー!!
何その興味無さげな反応!!」



写真を見るのをやめクルリとカウンターに身体を戻した私に、ヤツは冷たいとかひどいとかしくしく泣き真似をしてくっついてくる。


あーあーもう暑苦しい。



「ちょっと、重いんだけど。」



口ではそう言い訳ながらも、まるで恋人のようなこの数時間の幸せを噛み締めながら、私は改めて痛感した。


彼女がいるであろう彼とはもう、一緒にはいられないことを。





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