今日は、その白い背中に爪をたてる
というわけで現在私はホテル暮らし。


世界規模で展開している有名ホテルの一室に最低限の荷物を詰めたトランクを置いて、渡米までに残された一週間を日本で満喫だ。


一流のブランドと契約すると何もかも手配されるものが高級で初日は辟易していたが、適応力とは恐ろしい。


2、3日で慣れてしまってドアマンやフロントの人達とも普通に会話している自分がいた。


目の前に停まっていたタクシーに乗り込むと、



「どちらまで?」



「ええと、」



そういえば行き先を考えてなかったことに気がついた。


ご飯が食べられてお酒が飲めるところ。


ああ、そうだ。



「○○町のCamelliaまで。」



「はい、かしこまりました。」



人の良さそうなおじさんの運転手は、にこりと笑って滑らかに車を走らせる。


私は窓の外に見える、薄暗くなってポツポツと灯りがともり始めた街を見つめた。


晴斗に連れていってもらってからちょくちょく一人で訪れるようになってしまったソウさんのお店。


いつも晴斗がいやしないかとハラハラしていたのだけれど、今日はそうでもない。


まさか連絡のとれない私がCamelliaに来ているとは知らないだろうし(ソウさんが晴斗に言わなければ)、テレビの情報が正しければ今あいつは秋クールのドラマと冬公開の映画の撮影で大忙しのはず。



ー私を探しに来たりはしない。ー



……思わず唇を噛んだ。


分かりきっていた事なのに、自分で考えたことに自分でショックをうけているだなんて。


窓に写る私の情けない顔は涙を滲ませているのだ。


指で自分の顔をなぞってみる、赤くなった目尻の辺りを。


窓に触れても当然拭うことなんてできなくて。


私はまた一人苦笑する。



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