今日は、その白い背中に爪をたてる
「え、入ってきた時ってソウさん背中向けてなかった?」



「うーん、そうだったかな?
まあそれはおいておくとしても、目が赤いのは心配だよね。」



「あ、」



驚く私をよそに眉を八の字に曲げて、彼は自分の目元を細い指でトントンと指し示す。


そうだった、この人鋭い人だった。


まるでエスパーみたい、溜め息と共にそう呟けば彼は苦笑してグラスに出来上がったミモザを注いだ。



「……ちょっと、嫌な事があって。」



カウンターの木目を指でなぞり、曖昧に言ってみる。


けれどやっぱり鋭いソウさんはあまりにも直球を投げてくる。



「晴斗のこと?」



「っ、もう、もう少し遠回しに聞いてほしかった!!
確かに、そうなんだけど……」



グラスを差し出してくれた手をペチリと叩くと彼はあはは、と笑った。


けれの明らかに凹んだ私を見てソウさんは笑うのをやめてカウンターに腕を載せて、私と目線を同じにした。



「喧嘩でもした?」



「喧嘩、出来る仲ならいいんだけどね。
そこまで対等じゃないし。」



喧嘩というフレーズに乾いた笑いをみせる私を、彼は不思議そうな顔で見る。


彼にならいいか、と私はカバンから先ほどの週刊誌を取り出して、例のページを開いてみせた。



「……これ、」



見た途端に怪訝な顔をした様子から、どうやら彼は私と晴斗の関係を恋人か何かと思っていたらしい。


でも勘のいい人だ、私の言った事の意味は分かるはず。



「そういうことよ、ソウさん。
私と晴斗は喧嘩なんてしない。」



「晶ちゃん、」



「そんな顔しないで。
ソウさんが気にすることじゃない。」



まるで自分のことのように悲しそうにするソウさんは、どんな言葉をかけられるよりも私の心を癒した。


< 31 / 48 >

この作品をシェア

pagetop