今日は、その白い背中に爪をたてる
好きだと愛を囁いておいてなんて女だと軽蔑する?


それともたかがセフレの事なんて気にしないのかな?


思考がグルグルとミキサーのように渦を巻く。


堪らなくなってクロウの肩に額を押し付けた。



「アキラ、大丈夫だよ。」



そんなずるい私を一切咎めずに優しく声をかけてくれるクロウ。


それどころかまるで壊れ物でも扱うように後頭部を撫でてくれる。


本当にこの人は優しい人だ。


晴斗の部屋を出てすぐ電話をかけた相手はクロウで、あと3日程日本にいる予定だったのを変更して私は明日にしてとワガママを言った。


その時も咎めることなく(寝起きなのに)快く了承してくれた。


しかも向こうに仕事があるからと理由をつくって淋しい渡米のお供になってくれた。


そんな気なんてないくせに、私を嫁にもらうとまで言って。


それに縋ってしまうくらい精神的に参っている私の様子を皐月が複雑気な顔で見ているのを感じて、私は目をきつく閉じた。



「さあ、行こうか。」



フライト十分前になって肩をやんわりと掴まれる。


私はうん、と頷くものの足取りは対照に重かった。



ああ、どうしよう。


どんなにゆっくり歩いてみても、搭乗ゲートは着々と近づく。


クロウがスーツ姿のグランドスタッフに何か言うのをボンヤリと見て。



ーこれで、私の恋も終わり。ー



誰にも聞こえないような小さな声で、あーあと呟いて溜め息を吐いた。



「向こうに着いたら連絡してよ。」



ゲートギリギリのところにいる皐月が微笑んで言った。



「うん、見送りありがとう。」



手を振る皐月に笑顔を返して、私はクロウに肩を抱かれながら歩き出したーー、



「…………晶っ!!」



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