今日は、その白い背中に爪をたてる
「いきなり電話してくるから大変だったわよ、もう。」



「まあ昨日の今日だしね、それよりよく休みとれたわね。」



強行策に不満を言う皐月は少し言葉を詰まらせて、それから微かに笑った。



「…せっかく友人が旅立つなら休みの一つや二つくらいとらなきゃと思って。」



「ふーん。」



悪友の珍しく素直なセリフに私もつられて微笑む。


と、隣でクスクス笑い声がする。



「君達の会話はファニーだよ、本当に。
コメディ番組に出演できるんじゃないか、サツキ、アキラ?」



そんなにファニーだったろうか、私達の会話?


私は隣に腰かけるイケメンアメリカ人社長の笑いのツボが分かりかねて、同じくそう思っている風な表情の皐月を顔を見合わせた。



「そんなに面白い?」



「ククッ、ああ、面白いよ。」



顔を見合わせても結論は出なくて、いつまでもお腹に手を当ててクスクス笑っているクロウに尋ねるがやっぱりよく分からない。



「…フライトは何時だったっけ。」



仕方なく私は独りごちる。(クロウのツボは気にするだけ無駄だと踏んだ)


あ、思い出した11時だ。


記憶を辿って今朝のクロウとの会話を思い出したのだ。


今、10:40。


通常の旅客機なら既に搭乗手続きをしなければならないが、そこはまさかと言うべきか当然と言うべきか金持ち。


なんでもクロウの自家用ジェットでアメリカまでひとっ飛びするからなんなら出発時刻を変更出来る勢いらしい。


ドクリ、と急に体内の血液が循環する感覚。


考えないようにしていた時間。


分かってしまえば襲ってくるのは深い孤独感と罪悪感。


何も言わずに旅立つ、いや、消える私を彼はどう思うだろうか?



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