今日は、その白い背中に爪をたてる
…それに毎日毎日煌びやかな人間ばかりを相手に仕事してればオシャレする気も失せるというものだ。


人を撮るのを得意分野とする私に撮ってくれという芸能人は中々多い。


モデル、俳優、アイドル。


写真集を気に入ってくれて雑誌の特集用写真に指名してくれる実業家もいる。


そういった意味では私は業界では有名なのかもしれない。


写真家『堂林アキラ』はその名前から男か女か分からない謎の人物として世間で騒がれたのだから。


大学時代に遊び半分で入った写真サークルがきっかけでカメラを手にし、風景を撮影していてもどうもしっくりこなくてコンクールの結果も伸び悩んだ。



『アキラさあ、人撮る方が上手いよ。』



しかしサークルの先輩からの思わぬアドバイスが私の人生を変えた。


一度友人を撮った写真を応募したら大賞を受賞したのだ。


外資系企業に就職したかったはずなのに、その受賞したコンクールの審査員だったカメラマンの事務所にスカウトされ今に至る。


だから私の生きる術はこの手、目、そしてカメラ。


レンズを外して丁寧にしまいこむ。


なんの取り柄もない私に奇跡のごとく舞い降りた才能だ、自分の仕事にとても誇りをもっている。


そのための努力は惜しまない。


ーー例え、恋心を捨てても。



「……は、なんで……」



スタジオのあるビルから出たらロビーに男が一人立っていた。


見覚えがありすぎてスルー出来ない。


ミルクティー色の少し長めの髪、高身長でスタイルのいい男。


スマホを片手に壁に寄りかかる姿はスナップのようだ。


私は今、裏口から出なかったことを激しく後悔していた。



「あ、お疲れ。終わった?」
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