今日は、その白い背中に爪をたてる
ー気づかなければよかったのに。ー



少し離れたところに突っ立っている私を目ざとく見つけた晴斗はニコリと愛想良く笑ってこちらへ歩いて来る。


スマホをジーンズのポケットにしまい笑顔で歩く様はドラマのようだ。


…まあ実際出てるんだけど。


目の前で立ち止まった晴斗はショックで声も出ない私を随分と高い位置から見下ろして、どうしたの?と可愛く首を傾げる。


ついうっかりキュンとした。


ここが夜のビルでよかった、人気がないからこいつの一挙手一動に悩殺される女の子が続出しなくて済んだ。


……ていうか私キュンとしなかった?


いやいや、年下ストライクゾーンじゃないから対象外だろ。


今更だけどなんで5つも年下の男が好きなんだろ私?



「……晶、そんなに見つめられるとキスしたくなっちゃうよ。」



「え?」



聞き慣れないセリフが耳を通り抜けていった、かと思うとグイッと腰を引き寄せられた。


えっ、なに。



「ちょっ、んんっ……」



驚いて距離をとろうとするも顎をすくい上げられ口を塞がれる。


いきなりのキスなのに初めから容赦無く舌が入り込んできてクラクラする。


やめて、と言いたいけれど口の中は晴斗の侵略によってどうしようもなく熱くてとろけそうだった。



「や、っ……ん、は、る、……」



自分じゃないみたいな甘ったるい鼻に抜ける声が誰もいないロビーに響く。


クチュ、と響くそのいやらしい音が聞こえてこなければここがロビーだということを忘れてしまいそうなくらい、私は既に晴斗に溺れていた。



「っ、はあっ………はあっ……」



ようやく唇が離れたのは酸素不足で頭が真っ白になりかけた頃で、離れた途端私は思いっきり息を吸い込んだ。
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