俺様常務とシンデレラ
夏目さんがドアを開けるとすぐに、会長の渋くて貫禄のある、落ち着いた声が聞こえてきた。
会長は部屋の奥に置かれた黒いプレジデントチェアに腰掛け、デスクの上に両肘をついて、顔の下で手を組み合わせている。
デスクの前に立つのは、濃いグレーのスーツを着た常務だった。
「要するに、お前と東堂社長との間に適切な信頼関係が築かれていないから、こういう事態を招いたんじゃないのか? 君たちがもっと緊密に連絡を取り合える仲なら、こうはならなかった」
少し白髪が混じる短い黒髪と、意志の強そうなまっすぐな瞳。
その虹彩は常務と同じ色をしていて、スッと通った鼻筋は常務との血の繋がりを確かに感じさせる。
葦原会長は私の知っている本当の常務から、意地悪で子どもっぽい要素をごっそり抜き取ったような人だ。
会長は部屋に入ってきた私と夏目さんに気付くと、一瞬夏目さんと目を合わせてから、鈍く光る黒い瞳で私を見据えた。
「佐倉さん、さっそくだがこちらへ」
「はっ、はい……!」
会長に呼ばれて、私はカチコチになりながら常務の隣に立つ。
「詳しい話はきみのボスから聞いてくれ。こうなったことの責任は彼にある。ただ、私からきみに確認したいことがあるんだ」
私は葦原会長のオーラを至近距離でビシバシと感じで、ゴクリと息を飲んだ。