俺様常務とシンデレラ
私の大好きな、常務の飾らない笑顔に霞がかかり、スルリと手の中からすり抜けていく。
意地悪な常務。
甘いものが大好きな常務。
私の前で肩の力を抜く、無防備な常務。
色のない声に否定され、その全てがガタガタと崩れていくような気がした。
私が『どうして本当の自分を偽るのか』と常務に電話で聞いたとき、彼は言った。
『俺の親父に、公私を混同するなと、昔から言われていたからかもしれない。しっかり表の顔を使い分けろ、と。』
その声が耳によみがえった瞬間、私はどうしてか常務を繋ぎとめないといけないと思い、彼に向かって右手を伸ばした。
だけどその手が触れる前に、底冷えするほど感情のない声が聞こえてきて、私のその衝動を一気に打ち消した。
「ああ、そうだな。確かに親父は、昔からそう言い続けていた」
静かな声に身震いする。
ダメだよ、常務。
いかないで……!
私はもう二度と本当の常務に会えなくなるような気がして、怖くなって彼の表情を振り仰ぐ。
しかし予想外に、常務の黒い瞳は強い光をたたえてまっすぐに会長を見据えていた。