俺様常務とシンデレラ
会長はまるで威嚇するような常務のその視線もサラリと受け止め、冷たく感じるほど無機質な声で言った。
「お前は佐倉さんに随分と心を許し、特別に可愛がっているようだね。夏目からよく聞いている。プライベートでなにをしようと勝手だが、公私混同はするな」
常務はその言葉でサッと顔色を変え、声を荒げる。
それは聞く人の胸すら締め付けるような、随分と切ない声だった。
「してねえだろ! ボスが秘書を庇ってどこが公私混同なんだよ!」
「そうやって感情を剥き出しにするお前が、そもそもプライベートなお前だろう。お前はもう、彼女をかなり私的な部分に受け入れているんじゃないのか。そして冷静な仮面を脱ぎ捨て、会長である私に対して怒鳴っているじゃないか」
隣に立つ常務の肩が、小刻みに震えている。
常務はもう大人の男の人なのに、その姿はひどく寂しそうで、知らない街に放り出された迷子の男の子のようだった。
常務は怒ってるんじゃない。
すごくすごく、悲しんでるんだ。
私はなんとなくそう感じて、常務の手を握ってあげたくなったけど、会長の淡々とした言葉は容赦なく続く。
「だから公私は分けなさいと、前々から言っているんだ。お前の行動ひとつひとつが、葦原に関わる全ての人の生活を左右することにも繋がりかねない。それだけの地位と権力を持つ者なら、安易に私情を挟むな。簡単に本当の自分を出すな」
私はハッとして息を飲んだ。
常務の心が深く抉られる様子が、目の前に鮮明に浮かぶ。