俺様常務とシンデレラ
「ふんっ! 常務ってば、へっぽこへっぽこって私のことバカにして。そのくらいできますよーだ」
私は想像の中で数倍憎たらしくなった常務にべーっと舌を出して、決してこぼさないと誓いながらお盆を手に給湯室を出た。
写真で見た東堂会長は、精悍な顔つきのおじさんで、薄い肉付の頬に厳しそうな印象の鋭い瞳をもっていた。
東堂銀行の元頭取だけあって、現在でも経済界では要人中の要人なんだとか。
だから応接室のドアをノックするときには、さすがに緊張して3回ほど深呼吸が必要だった。
「はい、どうぞ」
私がちょっと気の抜けたようなノックの音を響かせると、中から柔らかな常務の声が応えてくれた。
悔しいけど、耳によく馴染んだその声に少しだけ肩の力が抜ける。
「失礼します」
ドアを開けて、しっかりとお辞儀をする。
どうか、常務の秘書はへっぽこな使えない奴だなんて思われませんように……。
心の中でそう祈りながら、頭を上げる。
応接室の中は空調で適当な温度に管理されていて、壁一面の大きな窓からたくさんの光が取り入れられていた。