俺様常務とシンデレラ
月と星、木々と花々に、小さな水音をたてる噴水。
そこに佇む美男美女。
「佐倉さん」
映画のワンシーンみたいな目の前の光景に、ひとり気後れする私を、常務が振り返って優しく呼ぶ。
本当はさっさと逃げ出すか、庭園の景色の一部になってしまいたい気分だったけど、ここで意地を張っても仕方ない。
常務のお知り合いなら、秘書として、あいさつが必要だ。
私が常務の隣に立つと、彼は篠崎さんの方へ視線を戻し、今日何度となく繰り返した紹介を同じようにスラスラとする。
「篠崎さん、こちら、僕の秘書の佐倉さんです。佐倉さん、この方は篠崎雅(みやび)さん。篠崎副社長の娘さんだよ」
「え! ふ、副社長の!?」
心の中でこっそり逃げ出したいなんて思ってた私は常務の紹介に度肝を抜かし、慌てて頭を下げた。
「はじめまして! さっ、佐倉絵未と申します! えっと、2週間程前から、葦原ホールディングスで秘書として働いてます」
私ってば、"篠崎"って名前を聞いたときに何でピンとこなかったんだろう!
副社長の娘さんだなんて!
また常務に好意をもつ女性だって、そればっかり考えて……。
「あら、この方が……。てっきり、大和さんについに恋人ができてしまったのかと思ったわ」
副社長から話を聞いていたのか、篠崎さんは私が常務の秘書だとわかると、どこかホッとしたように微笑んだ。