LAST SMILE ~声を聞かせてよ~
*
それは突然のことだった。
俺はわけのわからないまま、
窓の外を眩しそうに見つめる桐生さんの横顔を見ていた。
執刀医?
研修中の俺が?
たった2ヶ月しかここにいない俺が?
他の医者は俺を手術室に近寄らせなかったのに、
助手通り越していきなり執刀?
何考えてんだよこの人……。
「私が助手としてつくから、経験してみない?」
「えっ……いや、でもっ」
「自信、ない?」
うわぁ。
なんかいらっとした!!
むかつく……!!
俺は誰よりも優れた研修医だ。
自信がないなんてことはこれっぽっちもないんだよ!!
「あるよ!!……あります」
「そう。なら良かったわ」
桐生さんは小さく微笑んで、再び歩き出した。
いつものように、あの部屋に向かう。
俺はその間、
半ば睨みつけるように桐生さんを見ていた。
何考えてるのか分かんねぇ。この人。
なんか、他の医者よりも対応に困る。
どうしていいか分かんねぇんだもん。
1回くらい怒らせてみてぇよな。
こういう奴見るとさ。
ほんとに何しても怒んねぇのかな?
色々考えていると、
急に桐生さんが立ち止まり、俺はその背中にぶつかった。
「って……。すんません」
「神崎医師、大丈夫ですか?
上の空で……。これどうぞ」
桐生さんはポケットから何かを取り出して、俺に差し出した。
「なんすか?これ……。飴?」
「ミントは気分をリフレッシュさせるのに一番効果的です。
神崎医師も良かったらどうぞ」
「ああ、どうも……」
飴って……。
ガキじゃねぇんだから、こんなもんで機嫌直るかよ。
俺は一応お礼を言って、それをポケットにしまった。
ミントっつったよな?
俺、ミントとかスースーすんの嫌いなんだけどなぁ……。
そう思っていると、何かが靴の先にあたった。