精霊の謳姫
莫大な富と、絶対的な権威で極少数の民族の反発を抑えることなどいとも容易い。
それほどまでにその国は巨大だった。
大陸の、諸国の、中央に位置する国。
___故に”セントラル”。
ところが、そんなウェスタニアでも協定を結んでいない国が一つある。
周辺を山に囲まれた、ノーザルツ大陸唯一の鎖国にしてリディア達の祖国である、
”ミロス”だ。
「ミロスは極端に外界との接触を拒んだ。
例えかの大国ウェスタニアからの使者であろうと、謁見はおろか入国すら許さなかった程に、ね。」
ノヴァの青い隻眼が伏せられ、宝石のような瞳を縁取る長いまつ毛が、微かに揺れる。
ウェスタニアは二度に渡ってミロスへ使者を送ったが、魔導師の作り出す強固な結界を前にどちらも門前払いに終わったのだった。
「どうして?
そんなことをしたら、ウェスタニアを敵に回すわ。」
反勢力の先住民を黙らせ、周辺諸国を味方につけ、交易によって巨万の富さえ掌握する国だ。
そんな国が求めてきた握手を振り払ったとなれば、非礼千万もいいところである。
敵国と見なされ攻め込まれても文句は言えないだろう。
それでもミロスが彼の国と友好を築かない理由。それは…
「簡単さ。
ミロスは他国と宜しくする気はさらさらない。それこそ、戦争になろうとも構わないってことだよ。
…いや、違うな。
他国なんか眼中にない、と言った方が正しいか。」
「ノヴァ様、不敬ですよ」
どういうこと?と聞こうとしたリディアは、アレンの咎めるような声に口を閉ざした。