エターナル・フロンティア~前編~

 点検が終了の後、今まで使用していなかった機械の電源を入れていく。また違う人物は、点滴の管の途中から異なる液体を投与していき、流れ落ちる速度を調整していった。そしてそれらの作業が終了すると、部屋の中にいた一人が手を振り硝子の向こう側に合図を送った。

「此方は、終了した。其方も、準備を進めてくれ」

 合図を受け取った側は、再び合図を送り返す。その合図に応えると科学者の一人が床に置かれている箱を取り出し、実験台の上で開いた。収められていたのは、液体が入った数個のアンプルに注射器。アンプルの上に指を這わせながらラベルに書かれた名前を確認していくと、薄緑の液体が入ったアンプルと独特の形を持つ注射器を手に取り液体を入れていく。

 その者は手に取ったアンプルを明かりに照らし、中身を確認する。人工の明かりに照らされ、様々な色彩に変化する液体。無論、投与する人物はこの液体の正体を知っている。手が動く。するとそれに反応するかのように、周囲に立っている者達の顔色が変化していった。

 中身が正しい物だと確認すると、注射器の中に液体を納め少年の体内に躊躇いもなく投与していく。無論、投与は一瞬の出来事であったが、苦痛を感じたのか少年の唇が微かに動き呻き声を漏らす。投与が終了すると先程とは逆に、内側から外側に向かって合図が送られた。

「一本目を打ち終わった。データ収集を頼む」

 合図を受け取った側は指をキーボードの上に走らせ、情報を収集していく。一通り情報を集めると、頭上のディスプレーにそれを投影させる。映し出されたのは、少年の情報。現時点の心拍数や呼吸数・脳波に至り、その隣のディスプレーには薬による副作用など事細かに。

 特に、異常はなかった。しいて上げれば脳波に多少の狂いがあった程度で、それについては誰も気に止めていない。それにこの症状は少年だけではなく、他の実験体も同じ反応を見せていた。だからこの症状についても何ら疑問を持たれることなく、二本目の投与の準備がはじまった。

 その時、多くの科学者が作業している部屋の扉が音を鳴らし開く。それと同時に、一斉に開かれた扉に視線が集中する。彼等の前に姿を現したのは、所々に汚れが目立つ白衣を纏った五十前後の男だった。男は相当の実力者なのだろう、纏う雰囲気が明らかに他の科学者と違う。

「お疲れ様です」

 全員が、そのように言葉を発する。男は返事を返すように手を上げると、迷うことなく硝子の前に歩み寄っていく。そして片腕を硝子に付け、部屋の状況を観察する。作業に当たっていた者達は、男の姿を認めると慌てて深々と頭を垂れた。そう、男はこの研究の主任であった。
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