エターナル・フロンティア~前編~
男は少年の表情を見た後、自身の頭上で投影されている少年のデータを黙読していく。一通り確認した後、次にコンピュータの上に置いてある資料に目を通していく。するとデータに不満を抱いたのか、男の表情が一転する。そして、部下達に辛辣な言葉を放っていた。
「良い結果ではないな。これでは、私の研究の意味が無い。この研究が実証されれば、君達も功績が認められるのだぞ」
「ですが、指定された分量を投与いたしました。これ以前も、主任の言われた通りに投薬を……」
男の側に佇む犬の耳と尻尾が特徴的な女が、彼の言葉を否定する。しかし男はその否定に納得いかないのか、更に分量を増やすように命令を下す。刹那、研究室に動揺が走る。日頃から通常の五倍の濃度を投与し続けてきたのに、これ以上増やしたらどうなってしまうのか――
以前から投与してきた薬の量を考えると、その先に待っているのは死そのもの。男の考えに、女の顔が曇りだす。同じように、他の者達の顔から血の気が引いていた。しかし男はその考えを理解していないのだろう、再度同じ命令を下す。だが、誰も動こうとはしない。
「で、ですが。その濃度では、死んでしまいます。彼は連日の投与で体力が落ちていまして、わかっていながら殺すことはできません。それは、主任もわかっているはず。彼は――」
「それが、どうしたというのだ。実験に、犠牲はつきものだ。そのことは、お前達もわかっているだろう」
「し、しかし……」
「くどい。何度も言わせるな」
主任と呼ぶ男の強い口調に、女は言葉を詰まらしてしまう。そして相手から視線を逸らすと顔を歪ませ、強く握り締め拳を作る。徐に彼女は目を閉じ、これまで自分達が行なった行為を思い出していく。思い出す度に胸に鋭い無数の針に突き刺さる感覚に陥り、それが女を苦しめていく。
良心と悪の心が葛藤する。
そして、頭の中に様々な声が響いた。
女は、男の顔を凝視する。
男は口許を綻ばせ、子供のように笑っていた。
(この男は、狂っている……)
女の心の中に、怒りが芽生えだす。この男の馬鹿げた実験で、数え切れない命が消えた。その全て十代の子供達で、何人殺せば気が済むというのか。いや、この男は満足しない。ひとつのことに満足すれば、更に高みを目指す。永遠に繰り返される螺旋のように。この男が、消えない限り――