エターナル・フロンティア~前編~

「いいのですか?」

「どういう意味だ」

 イリアの後姿を見詰めていたヘレンが、そう尋ねてくる。だが返された言葉は、冷たい声音。しかしダニエルは、質問の意図を理解していた。理解していたからこそ、淡々とした声音を発する。

「確かに、立派な就職先です。ですが……」

「働くようになったら、自覚が芽生えるだろう。いつまでも学生気分ではいられないのだから」

「そうでしょうか」

「そう、思いたい」

 今の状況では、残念ながら期待する方が難しかった。流石にダニエルもそのことを見抜いていたのか、こればかりは本人が自覚してくれなければはじまらない。だが、期待はできない。

 娘の態度に肩を竦めると、どうやら先程の会話で疲れてしまったのだろう、ダニエルは腰掛けていたソファーから腰を上げるとキッチンの奥へ向かう。そして、何かを探しはじめた。

 それは、ウィスキーのボトル。滅多に酒を口にしない人物が、今日に限って酒を飲もうとしていた。先程のことで相当堪えたのか、表情に影が落ちていた。それでも本心の部分では、娘の成長を素直に喜ぶ。

 そう、予想以上に成長したからだ。

 勿論、ヘレンも同じであった。

 だからこそ、酒を飲もうとしている夫を止めることはしない。ただ共に、酒を酌み交わすだけ。




 両親の心情に気付いていないイリアは、自室のベッドに腰掛け片付けを行っていた。カバンの中から出されるのは、小物類。そして、携帯電話であった。それを見た瞬間、昼間の出来事を思い出す。

(……そうだ)

 卒業前に、ユアンに会いたいと言っていた友人達。それを叶えるには、まずは電話をしないといけない。旅行のことでスッカリ忘れていたイリアは、慌てて電話をかけようとする。

 ユアンは、何かと忙しい身分。電話をかけて迷惑だと思われるのではないかと心配になってしまうが、彼等の願いを叶えてあげたいという思いも存在した。何より、あの友人達の願いではない。だからこそ「叶えたい」という思いが人一倍強く働き、それが行動となって表れた。
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