エターナル・フロンティア~前編~
しかし、タツキは本気だった。そしてクリスが見捨てる方を選択した場合、予想通りの行動を取ろうと考えていた。怪しく光っているタツキの双眸に、クリスは助けることを選択した。
クリスは土産が入った箱を地面に置くと、プラスチックの籠に入れられたシーツを干していく。その手馴れた手つきにタツキは驚いてしまうが、クリスも独り暮らしなのでこれくらいはできる。
「あら、優しい」
「お前が、そんな目で見るからだよ」
「乙女の訴えよ」
「いや、それはない」
だが、それは死を招く言葉に等しく。反射的にタツキはクリスの腹に拳を入れた。本人曰く手加減した攻撃であったが、悶絶しそうな激痛にクリスはその場でしゃがみ込んでしまう。
「な、何を」
「アタシが女だと、認めないからよ」
「女なら……殴るな」
「仕方ないわ。条件反射だもの」
そのように説明されたところで、納得はできない。条件反射ということは、日頃から誰かに手を上げているということだろう。それを自覚していないタツキは、ある意味で恐ろしい。
それさえも、クリスは口に出すことはできない。言葉として発してしまえば、間髪いれずに拳が飛んでくる。一時期、科学者(カイトス)として働いていたタツキ。科学者はインドア派が多いと言われるが、タツキは違う。バリバリのアウトドア派であり、張り手に関しては並みの男を凌駕する。
「まさか……」
「それは、ないわよ」
「何も言っていない」
「言わなくとも、わかるわ。ソラ君のことでしょ? 大丈夫よ。彼を殴ることは、しないわ」
それを聞いたクリスは、安堵の表情を浮かべる。流石にソラまで殴っていたら、タツキの見る目が変わってしまう。現に良い印象を持てないでいるというのに、それが更に悪くなったら――
タツキが目標としている品のある女性から、完全にかけ離れてしまう。クリスは痛む腹を撫でつつふらつきながら立ち上がるが、作業の手伝いはできない。インドア派のクリスにとって今の攻撃は気絶してしまうほどの衝撃であったが、気合と根性で意識を保ち続けた。