エターナル・フロンティア~前編~
乾いた音が響く。
それに続き、ドアがピッタリと閉じられた。
寝室は、カーテンが閉められているので薄暗い。そして、最低限の物しか置かれていない。
寝室の内装は、その者の内面が表れる。
そう、誰かが言っていた。
ソラの内面は、想像以上に複雑だった。その為、内装から彼の心理状態を割り出すのは難しい。ソラは部屋の隅へ向かうと、掃除が行き届いている棚の中から四角い箱を取り出した。
何の変哲もない箱の中に入れられていたのは、特殊な形を持った注射器と透明な液体が入ったアンプル。これは一種の麻酔薬で、イリアの為にソラは使用を決断した。それも、一本では済まない。
よって、麻酔薬の使用を拒否した。
二十歳に近い年齢の身体で、麻酔薬の耐性が付きつつある。実に、ソラの生き方は悲しい。
(まったく)
溜息と同時にソラは一本のアンプルを手に取ると、親指で簡単に蓋を折った。そして、注射器の中へ入れていく。これは一般的に医療現場で使用されている麻酔薬より、濃度は濃い。それだけソラの身体の耐性が高く、それにより高い濃度の薬を欲しいと思ってしまう。
注射の打つ位置は、わかっている。長年、痛み止めを使用しているので、人体は熟知していた。透明の液体が、光を反射させる。白い肌の上に押し付けた瞬間、高圧の圧力を持って体内に投与する。何度、使用してもこれは慣れない。それどころか、使用する度に心が同時に痛み出す。
一本目の注射の後、二本目の準備に入る。先程と同じようにアンプルの蓋を折ると、液体を注射器に入れる。続いて、二回目の注射を打つ。暫くした後、徐々に麻酔が効いていた。その証拠に、鈍い感覚が広がっていく。ソラは徐に麻酔を打った足を叩き、感覚を確かめた。
(まだ、大丈夫か)
二本で効果が出なかったら三本目の使用を考えていたが、今回はその必要はない。そのことに、ホッと胸を撫で下ろす。大量の薬の使用による副作用は、ソラは身を持って知っている。
知っているからこそ、自分自身の足に麻酔を打つことに自己嫌悪に陥ってしまう。しかし、今回は特別。いや、特別といったらイリアが悲しがるだろう。ソラは何度も溜息をつくと、そそくさと片付けていく。そして一部の人間にしかわからないように、隠すように棚の中に入れた。