エターナル・フロンティア~前編~

 麻酔薬は毎回、タツキが特別に用意してくれている。無論タツキも不用意に使用してはいけないと注意を促しているが、今回は使用しないわけにもいかない。イリアが、料理を作っているという話は聞いたことがない。そうなると真剣に教えないと、とんでもない物が仕上がる。

 一応、研究面では真面目にこなしているらしい。しかし、それが家庭面に及ぶとからっきし。ソラにしてみれば家庭的な一面が強い方がいいが、流石に無理強いはできないのが現状。

(今回――)

 悪い予想は、確信へ変化していく。お菓子をどのように使用するかは何となく理解できるが、その背景に隠されている物を考えていくと、素直に教えるという気分になれない。それに、不利益が大きい。

 現に、足に麻酔薬を二本使用した。それにより、身体への影響は計り知れない。イリアという存在は、ソラにとってどのような存在か。

 ただの幼馴染か。

 それとも――

(……だが)

 疑問に思いつつも、ソラはイリアのリクエストを素直に受け入れていっている。これも幼少期に生じたトラウマが、大きく影響していた。ソラは人一倍、孤独を恐れている。それが影響してか、イリアの頼みごとを受け入れていく。それに、他の感情が働いていないといったら嘘になる。

 人がいいのか、悪いのか。

 ソラは、自分の生き方に苦笑する。

(まあ、今は――)

 再度感覚が鈍っている足の調子を確かめると、リビングへ向かう。そして、何事もなかったかのように振舞う。一方イリアは、部屋で何をしていたのか訪ねようとはしない。それは、雰囲気で何となく察したのか。ソラが纏っているオーラは、何処か切なさが感じられたからだ。

 立ち尽くすイリアを横目にソラは、テーブルの上に置かれている材料を確かめるようにラベルの名前を見ていく。一応、シフォンケーキを作る材料は揃っていたが、量が半端ではない。

「サイズは?」

「サイズ?」

 きょとんとした態度を見せるイリアに、ソラは項垂れ肩を竦めてしまう。作るサイズを指定してくれなければ、分量を測る時点で問題が生じてしまう。小麦粉が多ければ硬くなってしまい、卵が多ければ上手く焼き上がらない。一見簡単そうに見えて、菓子作りは奥が深い。
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