エターナル・フロンティア~前編~
第三章 代償

第一話 不協和音


 謎の人物。

 それは、ユアンを示す言葉。

 勿論、付属の言葉も多い。

 噂が噂を呼び、数多くの伝説を生む。

 いい噂悪い噂――だが、彼は笑って済ませていく。

 しかし、それが本質ではない。

 ユアンは時折、自分の過去を思う。普段は記憶の奥底に封じ込めているが、静寂の中で過ごしていると思い出す。

 湧き水のように溢れる記憶の数々。

 朝日が差し込む中、溜息がもれる。

 今、ベッドに横になっている。視界の中に移るのは、見慣れた天井。それに、光り輝く窓。

 そして――

 身動ぎした時、自身の横に誰かが寝ていることに気付く。片腕に、温もりが伝わる。その瞬間、苦笑した。

(そうだ)

 蘇った記憶は過去の出来事と一緒に、昨夜の件を思い出す。そう、この人物は研究所の女職員。

 名前は、いまいち覚えていない。

 彼にとって近付いてくる異性は、皆同じ。気に入られるようにと必死に媚を売り、尻尾を振ってくる。そして甘い言葉を囁けば簡単に付いてきて、全てを許す。今、互いに素肌を晒していた。

 男と女の情事。

 ある意味、日常茶飯事。

 世の中、女相手に苦労している人物は多いが、ユアンは全くそのような経験をしていない。

 女に不自由しない生活。

 だが、多ければいいというものではない。多ければ多いだけ、苦労が多い。寄ってくる異性は煩く、鬱陶しい。

 だからといって、邪険に扱うことはしない。

 一種のストレス発散。

 異性と遊んでいると、実に面白い。欲望を満足させる最善の方法とあると同時に、いらない出来事を忘れることが可能だった。ユアンはユアンで、ストレスが溜まり悩むことも多い。それを異性との“遊び”で発散してきたのだが、今日に限って蟠りが心に残っていた。
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